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Lukas Guggenberger

梯 剛之をめぐる話

梯 剛之のお父様の梯 孝則氏から、頂戴したエッセイ(会報誌掲載)をご紹介します。

「登山家 田部井淳子さんを偲んで」

会報誌No.23 2017年初夏号掲載

 剛之のおかげで素晴らしい方々とお知り合いになれるのは本当にありがたいことだ。沢山のそういう方々の一人に田部井淳子さんがいらっしゃった。いらっしゃったと過去形になるのは本当に残念なのだが、昨年の秋に故人になられた。

 その名前に「ああ、あの人か」とお思いになる方も多いと思うが、彼女はあの世界最高峰エベレストに女性としては世界で最初に登頂した人として有名な人だ。

 琴も弾かれるし、ピアノもお上手だった。歌も大変お上手で、近年は同じように歌うことが大好きなセレブ女性たち5人ほどとグループを作られ、「怖いもの知らずの女たち」と銘打ってコンサートを催されていた。そのコンサートに剛之がゲストとして出演したことがきっかけ、様々な形でご一緒させていただいた。思い出すだけでも、彼女の出身地福島県三春市、長野県駒ヶ根市、新潟県佐渡市と日ごろなかなか行けないところにご一緒に行けたことは得難い思い出になった。

 終演後に、お好きだった日本酒を飲みながらジョークを交えて談笑されているお姿を思い出すが、大変な病気を抱えて治療中とは微塵も感じられず、それは過去形で、すっかり快癒されたものと思っていた。しばらくお声がかからないなあと思っていたら、突然訃報が届いて愕然とした。

 先般「田部井さんを送る会」が母校である昭和女子大のキャパ800のホールで催されたが、国の内外から集まった人が会場に納まらなくて、倍する人が会場の外で献花の順番を待つという事態に、改めてそれまでの田部井さんの活動とその人望の厚さを実感した。献花の時にバックミュージックとして剛之のピアノ演奏を捧げることが出来たことは大変光栄なことだった。亡くなる直前まで綴っておられた手記が「送る会」の参列者全員に配られたが、その中に、佐渡のコンサートで、剛之が演奏する曲の一つとしてモーツァルトのピアノソナタK.331の第3楽章(トルコ行進曲)だけ弾く予定だったのに、何を血迷ったか、第1楽章から弾き始めてしまい、舞台袖にいた僕があわてふためいた様子を活字として残して下さったことは大変光栄というか、大変複雑な心境だ。

田部井 淳子氏(たべい じゅんこ)

1939年9月22日—2016年10月20日

日本の登山家。

女性として世界で初めて世界最高峰エベレストおよび七大陸最高峰への登頂に成功したことで知られる。

福島県田村郡三春町出身。

「柳澤桂子さんからの嬉しい電話」

会報誌No.23 2017年初夏号掲載

 先日、柳澤桂子さんから嬉しい電話があった。ベトナム出身のピアニスト、ダン・タイ・ソンが剛之のCDを気に入ってくれたという内容だった。

 生物学者・柳澤桂子さんとの交流は、剛之がロン・ティボーで入賞した直後、まだ20歳になるかならないかのころに、NHKのテレビの番組で対談したのがきっかけだった。柳澤さんからは著作が発刊されるたびにその本を頂戴し、剛之のCDが出来ると送らせていただくという関係を続けてきた。

 彼女はお子さんを出産された後、原因不明の激痛を伴う難病におかされ、現在も闘病生活を強いられておられる。執筆された本を献呈されて読んで以来、僕にとって最も尊敬する一人になった。般若心経を物理学的な視点から解釈された本がベストセラーになったことがあるので、ファンクラブの中にもお読みになった方がいらっしゃるかもしれない。

 剛之のコンサートにご本人はおいでになれないので、僕自身は一度もお目にかかったことはないが、剛之のことを心配してかけて下さった電話の中で、「自分が一番と思っている著作が一般に売れるわけではないのよね」と暗に剛之のことに引っ掛けて、自分の本のことを言われた時に、この般若心経のことを言われているのだなと合点がいったことがある。僕としても悠久の生命の歴史を通して人類の未来を憂えた著作「いのちと環境」に一番感銘を受け、僕の政治的立場の基幹にしている。

 柳澤さんは最近は目も悪くなられ、本を読むのが大変になられたご様子で、音楽を聴くのが、より楽しみになられていると聞く。

 剛之のことを我がことのように気遣って下さり、音楽関係の本で剛之に読ませたい本を送って下さったりもする。その本の中に台湾の人が世界の現代のピアニストにインタビューした3冊の本があるのだが、その3冊目の冒頭に出てくるのがダン・タイ・ソンで、ちょうどその本を読んでいる最中の電話だった。それは、以前、ご親戚筋の音楽大学の名誉教授に剛之のCDを送って紹介して下さったことがあったのだが、その方のお宅にダン・タイ・ソンが遊びに来た時にそのCDを聴かせたら、モーツァルトの演奏をとても気に入ってくれて、「このCDをもらえないか?」と持って帰ったという。その話を我がことのように喜んで、報告の電話を下さったのだ。

 剛之もダン・タイ・ソンの演奏は大好きなので、大変嬉しいニュースとなった。

柳澤 桂子氏(やなぎさわ けいこ)

1938年1月12日 ~

生命科学者、サイエンスライター、エッセイスト、歌人。

東京都出身。

「いのちと環境」「生きて死ぬ智慧」「いのちのことば」「永遠の中に生きる」他著作多数

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